会社設立のあと営業を始めるまでの費用。開業費に入るものと、入らないもの
この記事は、こういう方に向けて書いています
会社設立の登記が終わって、まだ売上が立っていない期間の支出をどう扱うかで迷っている方に向けた記事です。名刺を作った、案内状を出した、内装を頼んだ。売上がないのに出ていくお金です。
会社設立の費用の相場を調べていた頃には、この期間の存在を意識していなかったはずです。登記が終われば終わり、ではありません。営業を始めるまでにもお金がかかります。
この記事では、その支出が開業費に入るかどうかの線引きを整理します。金額は2026年8月23日に確認したものです。個別の判断は税理士にご相談ください。
開業費は、会社設立のあと営業を開始するまでの費用

会社設立の登記が完了しても、その日から売上が立つわけではありません。事務所を整えて、案内を出して、人を集めて。準備の期間があります。
この期間に使った費用が開業費です。会社設立の費用とは別に、この科目があります。
開業費は繰延資産のひとつです。国税庁は法人税基本通達の第8章第1節で繰延資産の意義と範囲を示しています。2026年8月23日に確認した内容です。
繰延資産ですから、払った期にそのまま費用になるわけではありません。いったん資産に計上して、償却して費用にしていきます。創立費と同じ扱いです。

会社設立の費用の相場として語られる金額は、この図の左端だけを指しています。登記までの実費です。
その右側、つまり開業費の部分には相場がありません。業種によって桁が違うからです。飲食店なら内装で数百万円、ひとりのコンサルティング業なら数万円で済みます。
だから、会社設立の費用の相場を調べて予算を立てても、そこには開業費が入っていません。別に見積もる必要があります。
では、何が開業費に入るのか。「開業のために特別に支出した費用」というのが基準になります。
この「特別に」という言葉が、線引きの鍵になります。
出典第1節 繰延資産の意義及び範囲等(法人税基本通達) (国税庁/2026年8月23日確認)
開業費に入る代表的な支出

開業費に入るとされる代表的なものを挙げます。開業のための広告宣伝費、接待費、市場調査費、従業員の研修費。
会社設立が終わってから営業を始めるまでに、その事業を立ち上げるために特別に使ったお金です。
| 支出 | 開業費に入るか | 備考 |
|---|---|---|
| 開業の案内状・チラシ | 入る | 印刷代・郵送代を含みます |
| ホームページの制作費 | 入る | 金額が大きいと資産計上の場合があります |
| 名刺の作成費 | 入る | 開業前に作ったもの |
| 市場調査の費用 | 入る | 開業のために調べたもの |
| 取引先へのあいさつ回りの費用 | 入る | 交通費・手土産代 |
| 従業員の研修費 | 入る | 営業開始前の教育 |
| 開業のための打ち合わせの飲食代 | 入る | 事実関係によります |
※ 個別の判断は税理士にご相談ください。
共通しているのは、その事業を始めるために、その時期にしか発生しない支出だということです。開業の案内状は開業のときにしか出しません。
逆に言えば、営業を始めたあとも毎月かかるものは開業費になりません。そこが分かれ目です。
会社設立の費用の相場が株式会社で20万円前後だとすると、開業費はそれと同じくらいか、それ以上になることがあります。業種によります。
ひとりで始めるコンサルティング業なら、名刺とホームページで5万円ほど。飲食店なら内装と什器で数百万円。比べる意味がないくらい幅があります。
だから、会社設立の費用の相場だけを見て資金計画を立てると足りなくなります。開業費まで含めて見積もってください。
なお、開業費に入るものは繰延資産として計上しますが、金額が小さければその期の費用として処理してしまうことも実務では行われています。
数千円の名刺代をわざわざ繰延資産にする意味はありません。手間のほうが大きい。
金額の大きいものだけを開業費にまとめる、という整理でも構いません。
出典開業費とは?計上できる費用と仕訳方法、節税のポイントを徹底解説 | 横浜市都筑区の税理士法人 Farrow Partners(ファローパートナーズ) (税理士法人Farrow Partners/2026年8月23日確認)
家賃や水道光熱費は、営業開始前でも開業費にならない

ここが一番間違えやすいところです。事務所の家賃、水道光熱費、通信費。営業を始める前に払っていても、開業費には入りません。
理由は、経常的に発生する費用だからです。開業費の定義は「開業準備のために特別に支出した費用」ですが、家賃は特別な支出ではありません。営業を始めれば毎月かかります。
同じ理屈で、従業員の給与も開業費になりません。営業開始前に雇っていても、給与は経常的な費用です。

では、営業開始前の家賃はどうなるのか。その期の経費になります。開業費として繰延資産に置くのではなく、支払った期の費用として処理します。
損をするわけではありません。費用として落ちるのは同じです。繰延資産にできないぶん、償却のタイミングを選べないだけです。
むしろ、赤字の期に費用が増えるので、繰越欠損金が増えます。まったく使えないわけではありません。
会社設立の費用の相場を調べて予算を組むとき、この「営業開始前の家賃」を忘れがちです。事務所を借りてから営業を始めるまでに3か月かかれば、家賃3か月分が出ていきます。
バーチャルオフィスなら月数千円から1万円程度で済みますが、実際の事務所を借りれば月10万円を超えることもあります。会社設立の費用より大きい。
この期間をどれだけ短くできるかが、資金繰りに直接効いてきます。準備が長引くほど、売上のない月が増えます。
出典開業前に支払った経費の仕訳は?(法人)| 決算・申告、業務の流れ(法人) サポート情報 (弥生/2026年8月23日確認)
仕入れた商品は開業費ではなく、棚卸資産になる

もうひとつ間違えやすいのが、開業前に仕入れた商品や材料です。これは開業費ではありません。
売るために持っているものなので、棚卸資産として計上します。費用になるのは、売れた時点です。
これは会計の基本的な考え方で、開業前だから特別扱いされる、ということはありません。在庫は在庫です。
- 販売用の商品棚卸資産。売れたときに売上原価になります
- 製造用の材料棚卸資産。使ったときに費用になります
- 10万円以上の備品固定資産。減価償却で費用にしていきます
- 敷金・保証金資産。返ってくるお金なので費用ではありません
10万円以上の備品も同じです。パソコン、机、什器。固定資産に計上して、減価償却で費用にしていきます。開業費ではありません。
ただし、中小企業には少額減価償却資産の特例があり、30万円未満のものを一括で費用にできる場合があります。適用には要件があるので、税理士にご確認ください。
敷金や保証金は、そもそも費用ではありません。返ってくるお金だからです。会社設立にあたって事務所を借りたときに払っていても、資産として計上します。
礼金は返ってきませんが、金額によって扱いが変わります。20万円以上なら繰延資産として償却するという扱いがあります。開業費ではなく、別の繰延資産です。
会社設立の費用の相場を調べているときには、こういう区別は出てきません。登記の実費だけを見ているからです。
実際に事業を始めると、費用にならない支出がかなりあることに気づきます。在庫、備品、敷金。お金は出ていくのに、その期の費用にはなりません。
資金繰りと損益が一致しないのは、このためです。会社設立の費用の相場だけを見ていると、この感覚がつかめません。
出典開業費とは?入れていいものや帳簿のつけ方、節税方法について解説|株式会社GLUG (株式会社GLUG/2026年8月23日確認)
創立費との線引きは、登記が完了した日で引く

開業費と創立費は、どちらも繰延資産で、償却のしかたも同じです。違うのは、対象になる期間だけです。
会社設立の登記が完了する前が創立費、完了してから営業を開始するまでが開業費。線を引く日は、登記が完了した日です。
| 時期 | 科目 | 例 |
|---|---|---|
| 登記の完了前 | 創立費 | 定款認証、登録免許税、設立の依頼報酬 |
| 登記の完了後・営業開始前 | 開業費 | 広告宣伝、市場調査、研修 |
| 営業開始後 | その期の経費 | 家賃、通信費、顧問料 |
※ 支出の目的によって例外があります。個別の判断は税理士にご相談ください。
ただし、時期だけで機械的に決まるわけではありません。目的でも分かれます。登記の前に開業の案内状を刷った場合、時期は創立費の範囲ですが、目的は営業の準備です。
こういうものはどちらに寄せても構いません。償却の扱いが同じなので、税額に差が出ません。
実務では、会社設立の費用は創立費、それ以外の準備の費用は開業費という程度の分け方で足ります。細かく悩む価値のある論点ではありません。
ただ、分けておくと後で役に立ちます。会社設立にいくらかかったのかを見返せるからです。相場と自社の実額を比べたいなら、創立費だけを取り出せる状態にしておいてください。
会社設立の費用の相場は、創立費の部分だけを指しています。開業費まで含めた相場は、存在しません。
それから、営業を開始した日をいつにするかという論点もあります。売上が立った日を営業開始とするのが一般的ですが、店を開けた日とする考え方もあります。
ここも事実関係によります。どちらの日を採るかで、開業費に入る支出の範囲が変わります。税理士に確認してください。
会社設立の費用と開業費を合わせた総額が、実際の立ち上げ費用です。相場の数字よりかなり大きくなります。
出典【経理コラム】開業時における創立費・開業費について|経理コラム | MMG税理士法人 (MMG税理士法人/2026年8月23日確認)
開業費として計上すると、いくらくらいになるか

開業費がいくらになるかは、業種によってまったく違います。相場という言い方が成り立ちません。
ひとりで始めるコンサルティング業や士業なら、名刺、ホームページ、あいさつ回り。合わせて5万円から20万円ほどでしょう。
店舗を構える業種なら、内装、看板、什器、開店の広告。数百万円になります。ただし、内装や什器の多くは固定資産で、開業費ではありません。

この図でわかるのは、会社設立の費用の相場が、立ち上げ費用全体の2割程度にしかならないということです。
会社設立の費用を数万円削っても、全体から見れば数%です。そこに時間をかけるより、他の項目を見直したほうが効きます。
ここで一つ、抑えることで手放すものにも触れておきます。事務所を借りずにバーチャルオフィスにすれば、家賃は月数千円から1万円台に下がります。
そのかわり、来客に対応できません。荷物も受け取れないことがあります。業種によっては成り立ちません。それから、金融機関の法人口座の審査で不利になることがあるとも言われます。
それでも、ひとりで動く業種なら合理的な選択です。手放すものを知ったうえで選ぶなら、問題ありません。
開業費として計上した金額は、貸借対照表の資産の部に載ります。そこから償却して費用にしていきます。
償却の判断は、会社設立の費用を創立費にした場合と同じです。赤字の年に償却しても税額は減りません。
出典開業費とは?費用範囲や繰延資産・任意償却の仕訳方法と開業準備のコツ | iTSCOM for Business (イッツ・コミュニケーションズ/2026年8月23日確認)
開業費を計上しそこねると、そのぶん費用にできない

開業費は、計上しそこねやすい科目です。会社設立の費用のように、金額が決まっていないからです。
登録免許税15万円は忘れません。金額が大きく、手続きに紐づいています。忘れるのは、細かいほうです。あいさつ回りの交通費、打ち合わせの飲食代、名刺代。
これらを拾わないと、そのぶん費用にできる金額が減ります。合計で10万円あれば、実効税率30%として3万円の差です。
会社設立の費用の相場を1万円下げることに時間をかけるより、領収書を10枚拾うほうが金額としては大きいことがあります。
- 領収書を封筒にまとめる会社設立の準備を始めたら、封筒をひとつ用意する
- カードで払う明細が自動的に残ります。現金より確実です
- 交通費は出金伝票領収書が出ないものは、日付と行き先を記録します
- 迷ったら分類しない「判断がつかない」の束を作って税理士に渡します
それから、開業費として計上できるのは、会社が負担すべき支出だけです。個人的な支出を混ぜることはできません。
会社設立の準備と個人の生活が混ざりやすい時期なので、ここは意識しておいてください。私的な飲食を開業費に入れると、否認されます。
判断がつかないものは、分けずに残しておくのが正解です。税理士に渡すときに、その束ごと渡せば済みます。
会社設立の費用と違って、開業費には決まった項目表がありません。自分で拾い上げる作業になります。
だから、記録を残す習慣がそのまま金額に効いてきます。相場を調べる時間より、封筒を用意する5分のほうが効くことがあります。
計上しそこねたものを、翌期に遡って入れることは基本的にできません。その期に処理してください。
出典開業費とは?開業後に支払ったものは費用にできるのか解説! (SoVa/2026年8月23日確認)
まとめ:「特別に支出したか」で判断する

開業費の範囲について、まとめます。
- 会社設立の登記が完了してから、営業を開始するまでの支出が対象です
- 開業のために特別に支出したものだけが入ります
- 家賃・水道光熱費・給与は、経常的な費用なので入りません
- 仕入れた商品は棚卸資産、10万円以上の備品は固定資産になります
- 繰延資産なので、償却して費用にしていきます
判断の軸は「特別に支出したか」です。毎月かかるものは入りません。この一点だけ覚えておけば、大きくは外しません。
- 対象の期間
- 登記の完了から営業の開始まで
- 入るもの
- 広告宣伝、市場調査、研修、あいさつ回り
- 入らないもの
- 家賃、水道光熱費、給与、仕入れ、備品
- 処理
- 繰延資産に計上し、償却して費用にします
会社設立の費用の相場は、株式会社で16万円台から、合同会社で6万円台から。それに対して、開業費には相場がありません。業種によって桁が変わります。
だから、立ち上げの資金を見積もるときは、会社設立の費用の相場に開業費と、営業開始前の家賃と、備品の代金を足してください。
そして、営業を始めたあとには毎年かかる費用があります。法人住民税の均等割は赤字でも年7万円が下限。社会保険に入れば、役員報酬に対しておよそ15%が会社の負担です。
会社設立の費用を数万円抑えることに時間をかけるより、設立後に毎年出ていくお金をどう設計するかのほうが、総額では効いてきます。
この記事の内容は2026年8月23日時点のものです。制度は改正されます。個別の判断は、必ず税理士にご相談ください。
出典償却期間経過後における開業費の任意償却 (国税庁/2026年8月23日確認)
「特別に支出した費用」かどうかで決まります
開業費の範囲は、金額でも時期でも完全には決まりません。開業のために特別に支出したかどうかが軸になります。
家賃や水道光熱費のように、事業を始めれば毎月かかるものは、営業開始前に払っていても開業費にはなりません。特別ではないからです。この一点を押さえておけば、大きく外しません。
この記事の内容は2026年8月23日時点のものです。制度は改正されます。出典としてリンクした情報で最新の内容を確かめ、判断そのものは税理士にご相談ください。
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