それでも紙の定款を選ぶ場面がある。会社設立の費用で4万円を払うほうが早いとき
この記事は、こういう方に向けて書いています
会社設立の費用を調べていて、電子定款のほうが安いのは分かったけれど、自分にできる気がしないという方に向けた記事です。機材もソフトもなく、設定作業に時間をかけたくない、という段階を想定しています。
電子定款にすれば印紙代4万円が消えます。これは事実です。ただ、紙の定款を選ぶことが間違いだというわけではありません。急いでいる、環境がない、一度きり。条件によっては、4万円を払うほうが合理的です。
この記事では、紙の定款を選んでよい場面と、そのときの進め方を整理します。金額は2026年8月22日に一次情報で確認したものです。判断に迷う場合は、司法書士・行政書士にご相談ください。
電子定款が安いのは事実。それでも紙を選ぶ理由

最初に前提を確かめます。電子定款にすれば、会社設立の費用から4万円が消えます。これは間違いありません。
定款は印紙税法の別表第一に定められた第6号文書にあたり、税額は4万円です。2026年8月22日時点で、国税庁の印紙税額の一覧表に記載されている内容です。電子データなら課税文書にあたらないので、印紙を貼りません。
ですから、会社設立の費用の相場を下げたいなら電子定款です。株式会社なら20万7,000円が16万7,000円に、合同会社なら10万円が6万円になります。
それでも紙を選ぶ場面があります。理由は三つ。環境がない、時間がない、一度きりです。

4万円は、環境を用意しなくてよいことと、時間をかけなくてよいことの代金だと考えると、判断がしやすくなります。相場より4万円高い会社設立を選ぶ理由は、そこにあります。
会社設立の手続きの流れは法務局が案内しています。定款をどう作るかは、その中の一工程にすぎません。全体の日程の中で、ここにどれだけ時間をかけられるかが判断の材料になります。
以下、紙を選んでよい場面を順に見ていきます。
出典No.7141 印紙税額の一覧表(その2)第5号文書から第20号文書まで (国税庁/2026年8月22日確認)
紙を選ぶ場面①:会社設立を急いでいる

いちばん分かりやすいのが、急いでいる場合です。電子定款の準備には日数がかかります。
電子署名をするには、電子証明書が要ります。マイナンバーカードに搭載されているものを使うのが一般的ですが、カードを持っていなければ発行から始めることになります。ここに数週間かかることがあります。
カードを持っていても、読み取る機器が要ります。カードリーダを買うなら、届くまでの日数がかかります。対応するスマートフォンを使う場合も、設定に時間がかかることがあります。
そして、電子署名に対応したソフトの用意。無償のものと有償のものがありますが、いずれにしても導入と操作の習得に時間がかかります。
紙の定款なら、これらが要りません。印刷して、押印して、収入印紙を貼るだけ。その日のうちに用意できます。

会社設立の日を決めている場合、この日数が響きます。設立日は法務局に申請した日になりますので、準備が間に合わなければその日には設立できません。
4万円で数日から数週間を買う。そう考えれば、急いでいる場面で紙を選ぶのは合理的です。会社設立の費用の相場より、日程のほうが重いという判断で、相場だけを見ていては出てこない結論です。
なお、急いでいるなら電子定款の作成だけを依頼するという方法もあります。依頼料が4万円より安ければ、そちらのほうが得です。ただし依頼から受け取りまでに数日かかりますので、その日数も含めて考えてください。
出典会社設立にかかる期間はどれくらい?設立までの流れや期間について解説 (freee/2026年8月22日確認)
紙を選ぶ場面②:一度きりで、環境をそろえる気がない

二つ目が、一度きりの会社設立で、環境をそろえる気がない場合です。
電子証明書、カードリーダ、電子署名に対応したソフト。これらをすべて用意すると、合計が4万円を超えることがあります。そうなると、差し引きで損になります。
今後も定款を作る予定があるなら、環境は使い回せます。二社目を作る、定款を変更する、他の電子契約に使う。回数で割れば安くなります。
ところが、会社設立が一度きりで、電子契約を日常的に使う予定もないなら、使い回す機会がありません。その環境は、4万円を浮かせるためだけのものになります。
この場合、選択肢は二つです。紙の定款で4万円を払うか、電子定款の作成だけを専門家に依頼するか。依頼料の相場が4万円より安ければ、依頼するほうが得です。
ただし、依頼にも手間はかかります。事務所を探し、内容を伝え、やり取りをして、受け取る。数日から一週間ほどかかります。この手間を避けたいなら、紙という選択もあります。
マイナンバーカードの電子証明書は、確定申告や各種の行政手続きにも使えます。会社設立だけのために考えないほうが、判断しやすくなります。すでに確定申告を電子で行っているなら、環境はほぼそろっているはずです。
逆に、これまで電子申請を使ったことがなく、今後も使う予定がないなら、この機会にそろえる理由は費用だけになります。その4万円が、設定作業の手間に見合うかどうかです.
会社設立の費用の相場を下げることだけを目的にすると、判断を誤ることがあります。相場に現れない手間も費用のうちだと考えてください。
出典電子定款を作成するメリット・デメリットは?ソフトや機材不要で作成する方法も紹介 (小谷野税理士法人/2026年8月22日確認)
紙を選ぶ場面③:機器の操作に不安がある

三つ目が、機器やソフトの操作に不安がある場合です。
電子定款は、データを作って署名を付け、オンラインで送るという流れになります。株式会社の場合、公証役場に送るには登記・供託オンライン申請システムを使うのが一般的です。法務省が案内しています。
この操作に慣れていないと、どこで詰まるか分かりません。署名が正しく付いていない、ファイルの形式が違う、送信の手順を間違える。いずれも、やり直しになります。
やり直しになると時間がかかります。会社設立の日程が押します。そして、何度もやり直すうちに、結局専門家に頼むことになるかもしれません。
紙の定款なら、こうした不安はありません。印刷して、発起人が押印して、収入印紙を貼って消印する。手順が目に見えます。
もちろん、紙の定款にも不備の可能性はあります。絶対的記載事項の抜け、押印の漏れ、印紙の貼り忘れ。ただ、確かめやすさは紙のほうが上です。
自分の得意不得意で決めてよいと考えています。機器の操作が得意なら電子定款で4万円を浮かせればよいですし、不安があるなら紙で確実に進めるほうが結果として早く済みます。
会社設立の費用の相場を下げることは大事ですが、そのために手が止まるなら意味がありません。相場より4万円高くても、前に進むという判断は十分に合理的です。
なお、株式会社の場合、多くの公証役場が事前に定款の案文を確認してくれます。紙でも電子でも、この事前確認は使えます。費用はかかりませんので、使ってください。
出典自分で電子定款を作成するための5ステップと認証までの流れを解説 (千代田税理士法人/2026年8月22日確認)
紙の定款で進めるときの手順と費用

紙の定款で進める場合の手順と費用を確かめます。
まず定款を作成し、印刷します。発起人全員が署名または記名押印します。株式会社の場合、公証役場に持っていく分と、会社の控えと、登記の添付書類にする分で、通常3部作ります。
収入印紙4万円は、公証人が保存する原本に貼付します。認証後に返ってくる謄本には貼りません。国税庁の印紙税額の一覧表にも、公証人の保存するもの以外は非課税文書である旨が書かれています。
収入印紙は郵便局や法務局内の販売所などで購入します。4万円の印紙は在庫がないことがありますので、事前に確認しておくと当日あわてません。
貼付したら消印をします。発起人の印で消すのが一般的です。消印を忘れると、印紙税を納めたことになりません。
| 項目 | 紙の定款 | 電子定款 |
|---|---|---|
| 収入印紙 | 4万円 | 不要 |
| 印刷と製本 | 必要 | 不要 |
| 発起人の押印 | 必要 | 電子署名 |
| 公証役場への持ち込み | 持参またはテレビ電話 | オンライン申請システムで送信 |
| 準備にかかる日数 | 短い | 環境の用意しだい |
| 謄本の受け取り | 書面 | データまたは書面 |
※ 公証役場によって取り扱いが異なることがあります。事前にご確認ください。
紙の定款は、製本して契印を押す必要がある場合があります。公証役場によって取り扱いが異なることがありますので、事前に確認してください。
そして、定款認証の手数料と謄本の交付手数料は、紙でも電子でも同じです。資本金等の額と発起人の条件で1万5,000円から5万円、謄本は1枚250円。変わるのは印紙代の4万円だけです。
合同会社の場合は定款認証がないので、作成した定款をそのまま登記の添付書類にします。それでも紙で作れば印紙税は課税されます。
出典9-4 定款認証 (日本公証人連合会/2026年8月22日確認)
紙を選んだ場合の、会社設立の費用の総額

紙の定款を選んだ場合の、会社設立の費用の総額を出します。いずれも2026年8月22日に一次情報で確認した金額から計算したものです。
| 項目 | 株式会社(紙) | 合同会社(紙) |
|---|---|---|
| 登録免許税 | 15万円 | 6万円 |
| 定款認証の手数料 | 1万5,000円〜5万円 | なし |
| 定款の謄本 | 2,000円前後 | なし |
| 収入印紙 | 4万円 | 4万円 |
| 印鑑 | 1万円程度 | 1万円程度 |
| 登記事項証明書・印鑑証明書 | 3,000円程度 | 3,000円程度 |
| 合計 | 22万円ほど〜 | 11万3,000円ほど |
※ 資本金100万円未満・発起人一人・条件を満たす場合。印鑑と証明書は仮置きです。代行に依頼する場合は手数料が加わります。
電子定款なら、株式会社が18万円ほど、合同会社が7万3,000円ほど。差はちょうど4万円です。
会社設立の費用の相場として紹介される数字が20万円台なのか16万円台なのかは、ここで分かれます。紙を選ぶなら、相場の上側の数字になるということです。
この4万円を、環境を用意しなくてよいことと、時間をかけなくてよいことの代金と考えるかどうか。そこが判断の中身で、相場の数字だけでは決まりません。
なお、この総額には資本金が含まれていません。資本金は会社設立の費用ではありませんが、手元に用意しておく必要がある現金です。
そして、設立後には毎年かかる費用があります。法人住民税の均等割は標準税率で年7万円、赤字でもかかります。設立時の4万円より、こちらのほうが総額には効きます。
設立費用の4万円を気にして日程を崩すより、設立後の固定費の設計に時間をかけるほうが、総額では効くというのがこのサイトの立場です。
出典会社設立の費用はいくら?株式会社と合同会社の維持費もわかりやすく解説 (freee/2026年8月22日確認)
紙を選ぶ前に、もう一度だけ確かめること

紙の定款を選ぶ前に、もう一度だけ確かめてほしいことがあります。当てはまらないなら、電子定款のほうが有利です。

すでに環境を持っているなら、電子定款にしない理由はありません。確定申告を電子で行っている方は、カードもリーダも持っているはずです。
環境がなくても、電子定款の作成だけを依頼する選択があります。依頼料が4万円より安ければ、確実に得です。事務所を探す手間はかかりますが、数日で済みます。
設立まるごとを代行に頼む場合は、電子定款が料金に含まれていることが多くなります。その場合、この判断そのものが不要になります。
日程に余裕があるなら、電子定款を試してみる価値はあります。うまくいかなければ紙に切り替えればよいだけです。ただし、印紙は定款を作成した時点で必要になりますので、順番には注意してください。
これらを確かめたうえで、それでも紙がよいと思うなら、紙で進めてください。会社設立の費用が4万円高くなりますが、それは自分で選んだ結果です。
知らずに紙で作って4万円払うのと、比べたうえで紙を選ぶのとでは、意味が違います。この記事の目的は、後者にしていただくことです。
出典電子定款とは?作り方・認証の流れを解説! (マネーフォワード/2026年8月22日確認)
まとめ:4万円は、環境と時間を買う代金

それでも紙の定款を選ぶ場面について、まとめます。
- 急いでいる場合。電子証明書の取得、機器の用意、ソフトの導入。準備に数日から数週間かかることがあります。会社設立の日を決めているなら、日程のほうが重いことがあります。
- 一度きりで、環境をそろえる気がない場合。環境の費用が4万円を超えると、差し引きで損になります。使い回す機会がないなら、なおさらです。
- 機器の操作に不安がある場合。やり直しになれば時間がかかります。手が止まるくらいなら、4万円を払って前に進むほうが合理的です。
ただし、選ぶ前に確かめてください。すでに環境を持っていないか。作成だけ依頼する選択はないか。日程にあと数日の余裕はないか。どれかに当てはまるなら、電子定款のほうが安く済みます。
金額をもう一度整理します。いずれも2026年8月22日に一次情報で確認したものです。紙の定款の収入印紙は4万円(国税庁 No.7141・第6号文書)。登録免許税は株式会社が下限15万円、合同会社が下限6万円。定款認証の手数料は1万5,000円から5万円。定款の謄本は1枚250円。
これらは改定されます。とくに定款認証の手数料は令和6年12月に区分が増えています。必ずリンク先の一次情報で確かめてください。
会社設立の費用の相場を下げることは大事ですが、そのために日程が崩れたり、手が止まったりするなら本末転倒です。4万円は、環境を用意しなくてよいことと、時間をかけなくてよいことの代金でもあります。
そして、設立時の4万円より、設立後に毎年出ていく費用のほうが総額には効きます。均等割は標準税率で年7万円、赤字でもかかります。そちらの設計に時間を使ってください。
この記事は一般的な費用の解説であり、個別の見積りではありません。判断に迷う場合は、司法書士・行政書士にご相談ください。
出典電子定款を自分で作成する方法|費用・手順・専門家への依頼まで徹底解説 (二見達彦税理士事務所/2026年8月22日確認)
4万円は、時間を買う代金でもあります
会社設立の費用の記事はたいてい「電子定款にすれば4万円安くなる」で終わります。ただ、4万円を払えば環境も設定も要らないという見方もできます。時間を買っていると考えれば、割に合う場面はあります。
大事なのは、紙を選ぶことを自分で決めているかどうかです。知らずに紙で作って4万円払うのと、比べたうえで紙を選ぶのとでは、意味が違います。
この記事の金額は2026年8月22日時点のものです。手数料も税率も改定されます。出典としてリンクした各機関のページで最新の内容を確かめ、判断そのものは専門家にご相談ください。
この記事のタグ
この記事は判断の材料になりましたか?