会社設立で印鑑を作らないとどうなるか。提出の任意化と、そのとき手放すもの
この記事は、こういう方に向けて書いています
会社設立の費用を1円でも抑えたくて、印鑑を作らずに済ませられないかと考えている方に向けた記事です。実は、制度上は可能です。
ただし、条件があり、失うものもあります。この記事では、その両方を書きます。
内容は2026年8月23日に法務省の案内で確認したものです。個別の判断は司法書士にご相談ください。
令和3年2月15日から、印鑑の提出は任意になった

会社設立の登記をするとき、登記所に印鑑を提出するのが従来のやり方でした。代表者印を届け出て、その印影が登記所に登録されます。
これが、令和3年2月15日から変わりました。法務省が案内しています。2026年8月23日に確認しました。
令和3年2月15日から,登記の申請をオンラインで行う場合は,登記所への印鑑の提出が任意になります。
— 法務省「商業登記規則が改正され,オンライン申請がより便利になりました」
つまり、オンラインで会社設立の登記を申請すれば、代表者印を作らなくても会社が作れます。
ただし、同じ案内には続きがあります。
登記の申請を書面で行う場合は,申請書に登記所に提出している印鑑を押印する必要があるため,従来どおり印鑑を提出していただく必要があります。
— 同上
書面で申請するなら、印鑑は必要です。任意になったのは、オンライン申請の場合だけです。

会社設立の費用の相場を抑えたい方には、選択肢がひとつ増えたということです。
以下、その選択で何が減り、何が失われるかを見ていきます。
なお、この改正は会社設立だけの話ではありません。役員変更や本店移転など、その後の登記にも同じことが当てはまります。オンラインで申請するなら、印鑑の押印が不要になります。
会社設立の費用の相場を調べているときには、こういう制度改正の情報まで届かないことが多い。書籍やまとめ記事は、改正前の前提のまま書かれていることがあります。
だから、印鑑について「必ず作るもの」と書いてある記事を見ても、それが最新の前提とは限りません。法務省の案内で確かめてください。
出典法務省:商業登記規則が改正され,オンライン申請がより便利になりました(令和3年2月15日から) (法務省/2026年8月23日確認)
印鑑を作らないと、会社設立の費用はいくら下がるか

印鑑を作らない場合、会社設立の費用がいくら下がるかを計算します。
代表者印の相場は、柘で2,000円から5,000円ほど、黒水牛で5,000円から1万円ほど、チタンで1万5,000円から3万円ほど。2026年8月23日時点の一般的な目安です。
3本セットなら、5,000円から5万円ほど。これがまるごと不要になります。

この図でわかるのは、印鑑をなくしても、会社設立の費用は数%しか下がらないということです。
株式会社なら18万1,500円が16万6,500円へ。1万5,000円の差です。会社設立の費用の相場の8%ほど。
柘の代表者印1本だけにすれば16万9,500円。印鑑なしとの差は3,000円です。
つまり、印鑑を作らないことで浮くのは、数千円から1万数千円。会社設立の費用の相場を大きく変える金額ではありません。
ここで一つ、抑えることで手放すものにも触れておきます。電子定款にすれば4万円が浮きます。印鑑をなくすより効きます。
合同会社にすれば10万円以上が浮きます。これはもっと大きい。
会社設立の費用の相場を下げたいなら、まず定款の形式と会社の種類を見てください。印鑑は最後です。
それでも、数千円は数千円です。削れるものを削るという姿勢自体は間違っていません。問題は、削ることで何を失うかを見ているかどうかです。
印鑑の場合、失うものがはっきりしています。印鑑証明書が出せない。これを許容できるかどうかで決まります。会社設立の費用の相場を下げる方法の中では、判断がしやすいほうです。
出典会社設立の費用はいくら?株式会社と合同会社の維持費もわかりやすく解説 (freee/2026年8月23日確認)
印鑑証明書が出せなくなる

印鑑を提出しないと、印鑑証明書が発行されません。これが一番大きな影響です。
印鑑証明書は、会社の実印を証明する書類です。その印影が登記所に登録されていることを証明します。登録していなければ、証明のしようがありません。
では、印鑑証明書はどんな場面で使うのか。
- 不動産の取引売買や賃貸借の契約で求められることがあります
- 金融機関との契約融資や口座の開設で求められることがあります
- 許認可の申請業種によっては添付書類になります
- 自動車の登録法人名義で車を買うときなど
- 大きな取引の契約書相手方から求められることがあります
使う場面がある業種なら、印鑑を作っておくほうが無難です。あとから提出することもできますが、その時点で作ることになります。
逆に、取引が電子契約中心で、不動産も車も扱わない業種なら、使わないまま何年も過ぎることがあります。
会社設立の費用の相場を抑えたい気持ちはわかりますが、数千円のために選択肢を狭めるのは、割に合わないことが多い。
柘の代表者印なら2,000円から5,000円です。会社設立の費用の相場が16万円台からであることを考えると、2%ほど。
この2%で、印鑑証明書を出せる状態を確保できる。そう考えると、作っておくほうが合理的な場面が多いでしょう。
それに、あとから提出するのも手間です。印鑑届書を出し直すことになります。
それから、登記事項証明書は印鑑がなくても取れます。印鑑証明書とは別の書類です。会社の存在や役員を証明するだけなら、登記事項証明書で足ります。
会社設立の直後に税務署や年金事務所へ出すのは、登記事項証明書のほうです。印鑑証明書を求められる場面は、意外に限られています。
だから、印鑑を作らないという選択が成り立つ場面もあります。自分の業種で印鑑証明書を使うかどうかを、先に確かめてください。
出典よくあるご質問等<商業・法人登記関係>:法務局 (法務局/2026年8月23日確認)
オンライン申請には、それ自体の準備が要る

印鑑を作らないためには、オンラインで登記を申請する必要があります。
オンライン申請には、電子署名の環境が要ります。マイナンバーカード、カードリーダー、署名用のソフト。
自分でそろえると、数千円から1万円ほどかかることがあります。カードリーダーは2,000円から3,000円、ソフトは無料のものもありますが、環境の設定に時間がかかります。
つまり、印鑑代を浮かせるために、別のところで費用と手間が発生することになります。
ただし、電子定款にするならどのみち電子署名の環境が必要です。会社設立の費用の相場を下げるために電子定款を選ぶなら、その環境をそのまま登記申請にも使えます。

この流れなら、収入印紙4万円と印鑑代の両方が浮きます。会社設立の費用の相場に対して、それなりの効果があります。
ここで一つ、抑えることで手放すものにも触れておきます。電子署名の環境をそろえれば、会社設立の費用が4万円以上下がります。
そのかわり、環境の準備に時間がかかります。マイナンバーカードを持っていなければ、申請から交付まで数週間かかることもあります。
会社設立を急いでいるなら、この選択は取れません。紙の定款で書面申請したほうが早い。
時間と費用のどちらを優先するか。そこで決めてください。
出典法務省:オンラインによる印鑑の提出又は廃止の届出について(商業・法人登記) (法務省/2026年8月23日確認)
印鑑を使わない実務は、どこまで成り立つか

印鑑を作らないとして、実務が回るのかを考えます。
契約書については、電子契約が広がっています。電子署名で締結すれば、印鑑は要りません。
請求書や見積書も、角印を押さなくても有効です。法的な要件ではありません。
問題は、法人口座です。金融機関に届け出る銀行印を求められることが多い。
ただし、印鑑を必要としない法人口座も出てきています。ネット銀行を中心に、印鑑レスで開設できるところがあります。
| 場面 | 印鑑が必要か |
|---|---|
| 登記の申請(オンライン) | 任意です |
| 登記の申請(書面) | 必要です |
| 法人口座の開設 | 金融機関によります。不要なところもあります |
| 請求書・見積書 | 法的には不要です |
| 契約書 | 電子契約なら不要です |
| 印鑑証明書が要る手続き | 印鑑を提出していないと出せません |
※ 2026年8月23日時点の一般的な状況です。取引先や金融機関によって異なります。
この表でわかるのは、印鑑なしでも実務は回りうるということです。ただ、場面によっては困ります。
特に、取引先が印鑑を求める場合。相手の社内規程で押印を求められると、こちらの都合では変えられません。
会社設立の費用の相場を数千円下げるために、取引で不便を抱える。そこをどう見るかです。
業種によります。電子契約が当たり前の業界なら、印鑑なしでも困らない。伝統的な業界なら、まず困ります。
自分の業種を見て決めてください。迷うなら、柘の代表者印を1本作っておく。数千円です。
会社設立の費用の相場を厳密に抑えたい方でも、ここは保険として払う価値があります。数千円で選択肢を残せます。
逆に、電子契約とネット銀行だけで完結する事業なら、作らないという判断も十分に合理的です。使わないものに払う必要はありません。
出典【読むだけで分かる】会社設立時の資本金払込完全ガイド (GMOあおぞらネット銀行/2026年8月23日確認)
あとから印鑑を提出することもできる

会社設立のときに印鑑を提出しなくても、あとから提出できます。
印鑑届書を法務局に出せば、その時点から印鑑証明書を取れるようになります。届出そのものに手数料はかかりません。
だから、とりあえず作らずに始めて、必要になったら作るという選択もあり得ます。
ただし、必要になるのは急なことが多い。取引先から「印鑑証明書を出してください」と言われて、そこから印鑑を作って届け出るとなると、数日から1週間かかります。
印鑑の発注から到着まで数日、届出から登録まで数日。間に合わないことがあります。
- 印鑑を発注する(数日)
- 印鑑届書を作成する
- 法務局に提出する(郵送または窓口)
- 登録されてから、印鑑証明書を取れる
この流れを、急ぎの場面でやるのは厳しい。
だから、使う可能性が少しでもあるなら、会社設立のときに作っておくほうが安全です。数千円の保険です。
会社設立の費用の相場が株式会社で16万円台からであることを考えると、柘の代表者印3,000円は2%以下。
ここで一つ、抑えることで手放すものにも触れておきます。印鑑を作らなければ、その数千円が浮きます。
そのかわり、必要になったときに数日待つことになります。その数日で取引を逃す可能性があるなら、割に合いません。
出典よくあるご質問等<商業・法人登記関係>:法務局 (法務局/2026年8月23日確認)
会社設立の費用を下げるなら、印鑑より先に見るところ

会社設立の費用を下げたいなら、印鑑より先に見るべきものがあります。
金額の大きい順に並べると、こうなります。
| 方法 | 減る額 | 手放すもの |
|---|---|---|
| 合同会社にする | 10万円以上 | 株式による資金調達、上場、知名度 |
| 電子定款にする | 4万円 | 電子署名の環境の準備が必要 |
| 専門家に頼まない | 5万円から15万円 | 定款の内容を自分で決めることになります |
| 印鑑を作らない | 数千円から数万円 | 印鑑証明書が出せません |
※ 2026年8月23日時点の一般的な目安です。
この表でわかるのは、印鑑が一番小さいということです。しかも、失うものが具体的で大きい。
会社設立の費用の相場を下げたいなら、上の三つを先に検討してください。
合同会社にすれば、登録免許税が15万円から6万円へ。定款認証も要りません。10万円以上が浮きます。
電子定款にすれば、収入印紙4万円が不要。これも大きい。
この二つをやったうえで、まだ削りたいなら印鑑を見る。その順番です。
そして、会社設立の費用より大きいのは設立後に毎年かかる費用です。均等割は赤字でも年7万円、社会保険の会社負担は役員報酬のおよそ15%。
会社設立の費用を数千円抑えることに時間をかけるより、そちらの設計に時間をかけたほうが、総額では効いてきます。
出典会社設立の費用はいくら?株式会社と合同会社の維持費もわかりやすく解説 (freee/2026年8月23日確認)
まとめ:制度上は作らなくてよい。実務上は作るほうが無難

印鑑を作らない選択について、まとめます。
- 令和3年2月15日から、オンラインで登記を申請する場合は印鑑の提出が任意になりました
- 書面で申請する場合は、従来どおり印鑑が必要です
- 印鑑を提出しないと、印鑑証明書が出せません
- 浮く金額は数千円から数万円。会社設立の費用の数%です
- あとから提出することもできますが、数日かかります
制度上は作らなくてよい。ただし、実務上は作っておくほうが無難というのが結論です。
- 条件
- オンライン申請の場合に限ります
- 浮く金額
- 柘の代表者印なら3,000円ほど。3本セットなら1万円以上
- 失うもの
- 印鑑証明書。取引先や許認可で求められることがあります
- あとから
- 印鑑届書を出せば提出できます。手数料は不要
会社設立の費用の相場は、株式会社で16万円台から、合同会社で6万円台から。印鑑代はその数%です。
削るなら、合同会社にする、電子定款にする、専門家に頼まない。この三つのほうが桁が大きい。
そして、会社設立の費用より大きいのは設立後の費用です。均等割は年7万円、社会保険の会社負担は役員報酬のおよそ15%。
会社設立の費用を数千円抑えることに時間をかけるより、設立後の設計に時間をかけたほうが、総額では効いてきます。
この記事の内容は2026年8月23日時点のものです。制度は改正されます。個別の判断は、司法書士または税理士にご相談ください。
出典法務省:商業登記規則が改正され,オンライン申請がより便利になりました(令和3年2月15日から) (法務省/2026年8月23日確認)
作らない選択は、条件付きです
オンラインで登記を申請する場合に限り、登記所への印鑑の提出は任意です。書面で申請するなら、従来どおり印鑑が必要です。
そして、印鑑を提出しなければ印鑑証明書が出せません。取引先や金融機関から求められる場面があるなら、作っておくほうが無難です。
この記事の内容は2026年8月23日時点のものです。制度は改正されます。出典としてリンクした法務省のページで最新の内容を確かめてください。
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